「南美ー、弁当入れたーっ?」


2階で着替えていると、台所からお母さんの声が聞こえてくる。


「ええーっ、まだぁ!入れといてーっ!」


至近距離にある鏡から視線を外して叫ぶ。


体育祭だから、何本もピンをさしていつもより固めにおだんごをセットする。


汗をかくのが前提だから、今日は思いっきりスッピン。


首周りのせまい体育着に着心地の悪さを覚えつつ、身支度をする。


「・・・これでいっか」


そして最後にジャージ姿の自分を全身鏡で見て、部屋を出た。



「お母さん、時間ないからあたしもう行くねーっ」


いつも持っていく学校指定の革の鞄ではない、エナメルを持って玄関へ行く。


中身もいつもより幾分か軽い。


滅多に学校には履いていかないスニーカーに足を突っ込み、家を出た。


去り際に聞こえたお母さんの言葉。


「ジャージのズボン、もっと上げなさいよー」


・・・聞こえなかったことにしよう。



まだ温かい9月の陽気。


体育着の上に、長そで長ズボンのジャージを着るって・・・。


「・・・あついしー」


つぶやきたくなるのも、頷けるはず。


そして学校に近づくにつれて、生徒達のにぎわいが聞こえてきた。


今日は体育祭だから、ジャージ登校ジャージ下校。


だから門の周りはジャージ人でいっぱいだった。


ある意味、年に1度の異様な光景。