まるで、早くあたしに思い出せとでもいうように。高鳴る動悸に、強くブレザーの胸元を握り締める。

でもそんなあたしの様子を知る訳もなく、室内では坦々と会話は交わされる。


「そう、よね…。……それにしても紫音、早く思い出せればいいんだけど。」

「ああ。これじゃあ氷室も報われねぇよな。あれだけ毎日付き纏われてたのに、今じゃ他人と変わんねぇなんて。」


…――会長が報われない?
…――毎日付き纏われてた?


「それより紫音よ。せっかく想いが実って付き合い始めたばかりだったのに、こんな…。教えてあげられないのが、もどかしい。」


………何? どういう、こと?
あたしと会長が、付き合い始めたばかりだったって?

だって、会長は鈴木さんと付き合っているんでしょ?
それが、あたしの失くした記憶なんじゃないの?

二人の会話と、鈴木さんから告げられた事実に生じた矛盾が、大きな困惑を生み出した。