思い出せないことが、もどかしい。
もう少しで思い出せそうなのに、どうして…

思い出そうとすればするほど、脈動に合わせて小さく痛む頭。右手で強くこめかみを押したとき、さっきより若干優しくなったような、そんな世奈の声が聞こえてきた。


「……あたし的に、さ。隼人の想いっていうか考えっていうか、そういうのを聞けて、とりあえず安心はしたんだけど。それって、質問の答えにはなってないよ。」


確かに、そうだ。
あたしが好きだったかも、とか、その好きは家族愛だった、とか、そんなのは根本的な理由を告げる答えにはなっていない。

世奈に同意するように首を傾げれば、中からまた隼人の笑い声が漏れた。


「ははっ、わかってるって。どうして俺があの日、紫音に嘘をついたか、だろ?」

「うん、そう。」


今のあたしにとって、まるで身に覚えの無い出来事、だけれど。
笑い声が止み、急に真剣さが漂い始めた室内の雰囲気に、間違いなくあたしはどこかに閉じ込められて、その記憶さえも失くしてしまったのだと、改めて事実を突き付けられた。