ただ、あたしが忘れているだけ?
これもあたしが忘れてしまった記憶の一部?

再び訪れたドアの向こうの沈黙を利用して、必死に頭を働かせる。


“バーカ。違うから。
お前なんて恋愛対象外だから。”

“ひっどー。
コレだから彼女にフられるのよ。”


そして、ズキンと一瞬頭が痛んだ刹那、不意に脳裏をよぎった隼人との会話。

――あぁ、確かに。
もう何週間も前だったはずだけれど、確かにそんな会話を交わした。

でも、何で?
どうしてこんな話の内容になったのか、それは思い出せない。

ただ、不明瞭で靄のかかったような記憶の中、隼人と話す前の記憶を遡る。

確かあの時、あたしと山宮と、あと二人くらい人が居たはず。一人は恐らく鈴木さん。じゃあ、あと一人は…?

思い出せそうだった記憶の欠片は、再び広がった靄によってまた見えなくなった。