「…っ! 僕から離れて、香波。」


鈴木さんを押し退け、勢いよく立ち上がった氷室さん。そこでようやく、彼はあたしの存在に気がついたようで。


「し、おん……」


サァーッと血の気が引くように、悪くなった顔色。立ち尽くす彼に、言うことなんて何一つ見つからなかった。


「……違う。違うんだよ、紫音。」


違う? 何が?


「僕はただ、倒れそうになった香波を支えようとしただけで……」


鈴木さんが倒れそうになっただなんて、そんなのワザとに決まってるじゃない。それにどんな理由であれ、たとえ鈴木さんの勝手な行動だったにしろ、キスしていた事実には変わりは無い。

ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえ、目線を反らすことができないまま、数歩後退する。

息が詰まって、上手く呼吸もできなくて。何度瞬きをしても、強く目を擦っても何一つ変わらない状況に、目眩がした。