夏休みに入る前に、どこの高校を受験するか決めることになった。
広幸にとっては未知の世界だった。勉強して受験することなど、今まで考えたこともなかった。
しかし、決断はせまられた。
結局、先生は反対したが、母が勧める高校を受験することにした。
実際は、どこでも良かった。
受験なんて、どうでも良かった。
野球のできない高校生活なんて、なんの意味もなかった。
だが、母をがっかりさせないため、母が望む高校を受験することにした。
今まで、母のしてくれたことには感謝している。
広幸のために、野球のために、お金を使い、時間を使ってきた母。
母だって、自分が受験することになるなんて思っていたはずだ。
来年は甲子園まで応援に行かなきゃ、と母は多分本気で言っていたと広幸は思う。
自分の挫折は、母にとっても挫折であったと広幸は感じていた。
だから、母の望みをかなえたいと考えた。
受験する高校は、広幸からすれば、到底合格するとは思えなかった。
先生も、はっきりと反対するくらい、広幸の学力では無理だった。
それでも、母の期待を、母の新しい夢を、裏切ることはできなかった。
期待に応える自分でいたかった。
せめてカタチだけでも。