今年の夏、広幸の学校は全国大会の一歩手前の大会まで来ていた。

当然エースは広幸だ。

途中までは順調だった。順当に勝ち進んだが、準決勝の前の試合で、広幸は故障した。

その試合は、なんとか勝ったが、ずっと一人で投げ抜いてきた広幸の肩は悲鳴をあげていた。

準決勝、広幸は控えに回った。広幸は投げたいと志願したが、監督が止めた。

しかし、今まで広幸一人で勝ってきたチームである。
代わりに出場したピッチャーはことごとく打たれた。

黙って見ていられない広幸は、監督に頼みこんで、マウンドに立った。

一球投げる度に、右肩にしびれるような激痛が走った。

だが、痛みをこらえ、歯をくいしばって投げ続けた。


勝ちたかった。


夢をかなえたかった。




その後、仲間達が奮起し、逆転でなんとか勝つことが出来た。


だが、その時点で広幸の右肩は、ほとんど限界だった。



激しい痛みが、途切れることなく、襲ってきた。




それでも、次の日、広幸はマウンドにあがった。

勝つためには、自分が投げるしかないと思った。



一回の表、マウンドに上がった広幸は、大きく深呼吸した。


この試合、絶対勝つ、

全国大会に行く、

全国までは時間がある。この試合さえ勝てば、肩はなんとかなる。

勝つんだ。俺はこんなところで負けはしない。


そう自分に話しかけた。



そして、

一回表が終わる前に、




広幸の右肩は、


完全に壊れた。