「だから何?」
怒りと憎悪感に満ちた声が、静まり返った部屋に響く。まるで自分の声とは思えない程の低さである。
私、山本歩は、付き合って2年になる彼氏がいる。彼の名前は高橋俊也。中学時代の同級生だ。
だが、最近上手くいかない。高校が離れ離れになり、なかなか連絡が取れない上に顔すら見れない。
小さな揉め事が大きな喧嘩へ。互いに傷付けあう日々。
慣れない高校生活に疲れもさしていた。
今はいわゆる、病み期だ。
苛々した感情を消し去れないまま、携帯を握り締めて眠りにつく。
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ブー…ブー…
「………ん…」
頭上で携帯がうるさく振動し始めた。
全身の力を込めて思い眼をむりくり持ち上げる。手探りで眼鏡をかける。レンズにうつる数字はAM05:20。
「は?5時!?何考えてんのよ…」
渋々携帯を開くと、意外な文字が飛び込んできた。
>私書箱メール投函のお知らせ
(私書箱?ああ、ホムペからか…。
内心乗り気ではなかったが、渋々開く。
>名前:たかし
件名:ちゃっす
本文:ホムペ見た。よかったらメールして
(たかし…って…男だよな…。しかも、ちゃっす…ってどうなのよ?チャラ男じゃん
私はチャラ男は嫌いだ。チャラ男といっても、無意味と思われるくらい茶色の髪を高く盛り、パンツをもろ見せながら歩くような、あれだ。あれはどうも受け付けない。
少し、戸惑った。
チャラ男かもという心配もあるが、私の脳裏に俊也の顔が浮かぶからだ。
彼は嫉妬深いことで有名である。中学生の私は、女友達しかいなかった。というより、男友達との縁は俊也のために切った。
怒られる恐怖心、いつ見られているか分からない不安。それでも私は彼を愛し、彼も私を愛したわけだ。
そして今。
その記憶が、鮮やかに私の中を巡る。もしこの人とメールをしたことがばれたら…?私は何て言われるのだろう。何て叱られるのだろう…。
高鳴る鼓動。全身で脈を打つ。
そん中、私が出した答えは、ボタンをゆっくり押しはじめた指が物語っていた。
>件名:あゆみです
本文:メールありがとうございます!私でよかったらよろしくお願いします( ^ω^ )
気付いたそのときには、携帯画面に送信完了の文字があった。