「さっき男バスを睨んでるように見えたけど、もしかしてハチもチョコほしいの?」


ボールを用具室に持っていって、モップで床を磨いていると、亜希先輩が訊ねてきた。

なぜか、クスクス笑いながら。


「はい?」

「いやね、すごい顔だったから。大丈夫だよ、ハチのぶんもちゃんとみんなで用意したから」

「はあ・・・・」


いやいや。

俺が心配しているのは、チョコをもらえるかどうかじゃなくて。

その・・・・亜希先輩のほうだったりするんですけど。


「先輩、あの」

「なに?」


ついつい、まだ女子部員に囲まれて鼻の下を伸ばしている190cmに目が行ってしまう。

先輩と並んでかけているモップも俺だけ手が止まってしまった。


「・・・・ああ、あれ? 去年もだったの。あからさまに嬉しそうな顔しちゃってねぇ。でも、あれでもけっこうマメで、ホワイトデーのお返しなんかもしてたんだよ」

「そうっスか」

「うん」


再び動きはじめた俺の手。

亜希先輩は、俺の目の先をたどってそう説明してくれた。