炯は頷くと、俺と男の間に立つ。
俺は、腰を屈めて美空を抱えた。
「………美空、」
「ん……」
うっすらと美空が目を開く。僅かに見える黒い瞳に俺が映ると、ふわっと笑った。
さっきと違う、前に向けられたもの。
「あ……龍さん……」
「あぁ……」
「何で……?」
ここに、と聞いてくる美空の背中と膝裏に手をやり、そのまま抱きかかえた。
「おい、」
「300万」
抗議をしようとした男達に炯が一枚の紙を突きつけた。
ここは炯に任せよう。
俺は、なるべく美空の負担にならないようにゆっくりと古いアパートを後にした。