「迎えが来る恐怖はあります」

「お前」

 まさかと片目を眇める。

「しかし、それによる焦りはありません」

 焦っても仕方の無いことに精神をすり減らす意味はない。

 そんな事に気を回すくらいならば、したいことに費やしたい。

「あのときまで、定められた日程と限られた世界が私の全てでした」

 それを苦痛であると感じたことはなかった。

 自身の存在を思えば、これはむしろ恵まれている。

「私が、彼らの望むようなものでなかったなら。教育すら受けられたか解らない」

 多くの犠牲のうえに私は成り立っている。

 しかしそれも──

「いま、ここにいるためのものであるならば」

 無駄ではなかったのでしょう。

 施設にいた頃は、学んだ全ての事柄を活かせる場がどこにもないことに、少なからず虚しさを感じていた。

「活かせる場のための犠牲が、あまりも大きすぎた事に胸は痛みます」

「お前のせいじゃない」

「いいえ、私が招いたものです」

 例え、他者の意思によって生み出された存在だとしても。