葵を立たせると、自分のコートを無理やり着せた。


『これなら服の泥も目立たないだろ!』


「ごめんなさい…」


暗い顔を両手で包み、上目になる葵に優しく笑いかけた。


『泣くなよ?』


「泣きません。」


潤んだ瞳を俺から逸らし、小さく抵抗する葵を愛おしく思う。
葵の瞳が潤んでるのは、転んだからじゃないって事くらい俺にもわかる。
俺が起きる前から、どれにしよう?って悩みながら決めた服なんだもんな。


『さて、恭平達探すか?』


頷く葵の目から涙が零れた。


『手、離すなよ?』


再び頷いた葵は、俺の手を強く握った。
──しばらく無言で歩いてると、どこからか人の声が聞こえてきた。


『誰かいる…』


声のする方に近づくと、休憩所として建てられたL字のベンチにアリスと恭平の姿を見つけた。


『ここにいたのか』


「なにを話されてるんでしょう?」


見つからないよう体勢を低くし、声が聞こえるギリギリの場所に身を隠した。


「騎馬さんに連絡しなくていいんでしょうか?」


小声で聞いてくる葵に、同じく小声で返した。


『連絡するのは、話が終わってからでも遅く無いだろ?』