「見つかりませんね…」


『…うん。』


森の中に入って、どのくらい過ぎたんだろう?
後ろを付いてくる葵が、独り言にも似た事を言った。


「どこまで行かれたんでしょう?」


本気で心配する声を聞きながら、散歩コースと化した道をひたすら探し歩いた。
このまま二人が見つからなきゃいいのに。
歩きながらそんな事を思ってた。
ダブルデートを提案した後に言った《私達もデートできます。》その言葉と葵のハニカム笑顔が何度も頭を蘇った。


『…今日で最後』


「なにか仰いました?」


『今日で最後だな、俺の執事でいるの。』


いつの間にか俺に並んで歩く葵が、不思議そうな顔で俺を見上げた。


「どうなさったんですか?いきなり」


『いきなり…か。
フッ、いきなりじゃないよ。
ここ最近、ずっと考えてた。 あと何日で…って
恭平の事があったから、落ち込まずにすんだけど。』


そう地面に笑いかけた。
そんな俺を見て、葵がこんな事を言った。


「私は執事を辞めるだけです。 陸に会おうと思えばいつでも会えますし。一緒にいたいと言うのなら、陸が寝付くまで側にいます。
一生離れ離れになるわけでもないですし、ねっ?」


明るく笑う葵を横目に、数回頷いた。