ある晴れた日の朝。
飯沼 咲(イイヌマ サキ)は息を荒げて自転車を漕いでいた。
顔面汗びっしょりで頭からは湯気が出ている。
しかし咲にとってそんな事はどうでもいいのだろう。
ただひたすら前を見つめ重いペダルを踏み続けている。

ちらりと携帯の時計を見ると時刻は朝7時54分。

「やばっ ほんとに間に合わないかも」

咲は更に力を入れて自転車を漕いだ。

「初日から遅刻なんてありえない…」

咲は市内の公立高校に通う16歳。見た目も性格も特に特徴は無く、いわゆる普通の女子高生だ。

今日は咲の学校の始業式の日だった。
しかし昨日の夜は明日から学校が始まるという高揚感からなかなか寝就けず、見事に今日寝坊してしまったのだ。

始業式から遅刻なんてしたら先生に大目玉喰うだろうし、何より今日はクラス割りの発表の日でもある。
一人だけ出遅れるわけにはいかない。