「一点足りなかっただけ。」ふてくされた表情で彼はヘナヘナと床に座りこんだ。俗に言う、ヤンキー座りという姿勢だ。
やっぱり、近頃の高校生は何かわからない。
『邪魔になるでしょ』
そういって私が前傾姿勢になって彼を引っ張りあげようとした時だった。
「先生、あのさ…」
急に彼は小声になった。
『なに?』
「死体に興味ない?」
消え入りそうな声だった。しかし、それは私の何か奥底にある情念にしっかり食い込んだ。
そしてその日の放課後、私たちはアドレスを交換した。その瞬間、私たちは仲間となった。
私は死体写真コレクターだ。
彼は殺人現場ツアーを一人でやってるらしい。
ツアーなのかは知らないが。
彼には私と同じ世界に生きているという、確信がもてた。
その茶色い瞳の奥にはどこか私と同じものを感じさせる何かがあった。
死に魅せられ、死と繋がることを望んでいる。
殺人犯A
午前2時。私と玲はいつものように、無人駅のホームで落ち合うことにした。
ちょうど二人の住所からして同じくらいの距離だからというのもあるし、ヤンキーすらいない静かな駅ということで、いつもここで待ち合わせしている。
早く着いたのは私だった。
自販機のコーヒーを二本買いベンチに座る。
予想外に冷たくて私はびくっとした。
息が白く変わってくのをぼんやり眺めること5分。彼がやっと来た。
独特の足音で私はすぐに気付いた。
『5分遅刻。…何、それ?』
私は彼の荷物違和感を覚えた。いつもより明らかに多い。
「これ?大量にカメラフィルムを持ってきたんだよ。いつもよりたくさん写真におさめたいんだ。」
そう言うと黒い、美容系の専門学生が持つような大きなかばんから、何枚かの写真を取り出した。
『すごい…』
写真は血だけを写したもの、肉片が散らばってるもの、眼球が机の上にたくさん乗ってるものなど、様々な種類、様々なアングルから撮られたと思われるものだった。
私の中で何かがふつふつと湧き上がってきた。
「俺の推理だと、これは全部同じ場所。今日行く場所だと思うんだよね。この机とか、窓。アングルは違うけど材質とか位置は一致してる」
たしかにそれは一致している。
だが、全て別人だと思われる。
眼の色や血の色が違う。少なくとも五人以上…。大量虐殺?だとしたら犯人は何人だろう
「興味、わいてきたしょ?まだニュースには出てないみたいだよ。これは裏サイト経由の写真でね。高かった…」
そんな裏サイトがあるなら是非とも教えてほしいと思った。
コレクターの私が裏サイトの一つもしらないというのに、彼は知っている。少しプライドに傷がついた。
「運がよければ、実際に見れるかも。肉片とか。俺、眼球みてみたいな。あれって乾くとどうなるんだろ」
独り言のようなその言葉にプライドなどどうでもよくなってきた。
神が実在するなら、私はひざまずいて感謝したい。悪趣味が合う人と巡り逢えてよかった。ありがとう、と。