――――コンコン

「はーい、どうぞー」


ここは、事務室の奥にある部屋。

まあ、相談室みたいなものらしい。

わたしは3年間この部屋の存在をしらずに高校生活を過ごしたんだと思うと、自分で自分を平和な奴だと思った。


「こんちわ、凪ちゃん。」

そう言って入室してきたのは、男子生徒。

アッシュ系の髪をワックスで無造作にセットし、整った綺麗な顔立ちで、高校生には見えない雰囲気をまとっていた。


だいたいこの部屋は、男子生徒はめったに利用しないと先生達から聞いている。

実際勤めはじめて1ヶ月間、女子生徒以外は来ていない。


「こんにちは。はじめまして、新入生くん。」

チラリと校章の色で学年を確認した。

「俺に見覚えないの?」
そう言ってグイっと顔を近付けてくる。


「どうしてわたしがあなたに見覚えがあるのよ?新入生でしょ?わたしが卒業した後に入学したんだから会ってるはずないよ。」


「まーいいや。俺は流伊(ルイ)。」


「そう。わたしは水谷凪よ。流伊くんの苗字は?」


そう尋ねると彼は不敵に笑い、

「教えない。」


それだけ言って、相談室から出ていった。


色々疑問には思ったが、たいして気にとめず帰る準備をした。