数秒、彼を見つめる。どうやら出て行く気配は無い。


 それを確認したあたしは、勇気を振り絞って彼の元へ行き、声をかける。



「氷室君、今日はどうしたの?」



 昼休み以来、やっと話しかけることができた。


 まっすぐ目を見て聞いたのに、氷室君の視線を合わせてもらえることは無く。



「委員の仕事で、残っとけって」



 ……別に、期待なんてしていなかった。そう自分に言い聞かせて、どうにか落ち着かせる。


 まさか残っている理由があたしだなんて、そんなばかなこと、あるはずない。もう一度頭に叩き込みなおす。


 意識の外で俯いていたあたし。



「……どうしたんだよ」



 そこで降ってきた声は、この上なくずるいもので。


 極度に落ち込んでいる、こういう時に限って、まるで心配するような言葉を、うっとうしそうに…でも、かけてくれる。


 この一週間という時間の中で、たったの二回目。


 だからこそ、ありがたみが、幸せが、身に染みる。