―――服、そこで一つ、引っかかるところがあった。


 氷室君は、どんな服が好みなのだろう。この間の服も、あたしなりに選んではみたものの、彼の好みから大きく外れていたりは、しないだろうか?


 突然あたしを支配する不安の中に、意識は溺れていって。



「一香ー、またどこかに行ってない?」



 耳元で聞こえた声。それは決して大きいものではなかったけれど、確実にあたしを“ここ”へ連れ戻した。



「はっ」



 場所も時間軸も遠く離れたところに、気付いたらあたしは流されていた。


 いや、少し冷静になれば、時間はそれ程に離れていないのだけれど。……これもまた、考えてもどうしようもないこと。


 大丈夫でないことなんて、自分が一番分かっているのだけれど、それでも自分が心配になる。


 こんなあたしを現実に引き戻すのは、いつもあーちゃんの役目となってしまっている。いつ見放されるだろうかなんて、考えたら恐ろしくて。いつか本当に、あたしは帰って来られなくなる予感がする。