こんなで、楽しいデートなんて、出来るものだろうか。不安だ。


 …でも。楽しいというより、すごく幸せだから、きっと大丈夫。


 数分歩いて、水族館の入り口。


 ここまで来てようやく気付くとは、あたしの頭もずいぶん弱いものだ。



「ひ、氷室君……あの、ごめんなさい」


「ん?」



 あと三組で、あたし達の受付。まさかであった。



「どうしよう…あたし、入場料までないよ」



 すっかり忘れていた。電車賃さえ足りればどうにかなるという、自分の決意と反対の思考に、完全に呑まれていた。


 外でデートだなんて、今のような幸せな絵図は、実際想像できていなかった。


 そこで吐き出された盛大な溜息と次の言葉に、あたしは今度こそ本当に絶望する。



「…仕方ねぇな」



 あぁ、失敗した。もしここで帰るなんてことになっても、自業自得なのだけれど。辛くて耐えられそうにない。



「次はお前だからな」



 そう言って彼はお財布を取り出して、二人分の入場券を買ってくれた。


 つまり、次はあたしが同じように。


 それは、うぬぼれでなく、きっと次があるということ。


 どうしよう…あたし今、世界一の幸せ者かもしれない。