だって、信じられるはずないじゃない。


 まさか、貯金が決定しようとは。百円だったろうか?


 いや、重要なのはそっちではない。危なかった。


 今まで、自分の彼の中での立ち位置さえ疑うようなあたしだったのに。


 幻聴でなく、本当に今、あたしは氷室君から、氷室君の意思で誘われたのか。


 耳に入った情報が全て明確か、あたしは不安で仕方ない。



「……どうした?」



 そう、誘いに対する答えを返さないまま口を閉ざしていたあたし。


 冷たくも、矛盾しているかも知れないけれど、雪のような不思議な温かさを感じたのは、気のせいでないと願いたい。



「あ、いや…」



 「何でもない」、そう答えようとして、言葉を止める。これではいつもと変わらない。


 どうにかこの定型の流れを抜け出そうと。



「氷室君からそう言ってくれるなんて、思ってなくて」



 素直な気持ちだった。


 意外で意外で、でもそれより嬉しいという感情が強かった。


 それが彼に伝わったか否かは、いくら彼を見つめても、分からなかったけれど。