「母さんかなり楽しみにしてるから」



 楽しみに―――それは、脅迫であり、あたしにこの上ないプレッシャーを与える。


 断るに断れない状況。既にあたしは泣きそう。


 しかしそこで、当然知っておかないといけない事項を自分が知らないことに、ようやく気づく。



「でも、さ」


「ん?」


「あたし、氷室くんの家、全く知らないんだけど」



 どうすればいいのだろう。まさか、今日教えるから家までついて来いなんて、そんな横暴な事は無いだろうが。



「あー…じゃぁ」



 次の言葉を、静かに待つ。今のは極端な例えで、あるはず無いけれど。


 そう信じながらも、どうにも信じきれないでいるあたしの耳に、入った言葉は。



「駅まで来て。迎え……行くから」



 言わなかった。氷室君もそこまでひどい人ではなかった。


 そして何より、「迎え行く」って。その言葉だけであたしは十分嬉しいんだって。


 きっと氷室君は、そんなこと知らない。