「…邪魔」



 教室の入り口。十分休みお手洗いに行っていたあたしは、時間を確かめるために立ち止まって時計を見た。


 そのたった一瞬、タイミングよく後ろにいた氷室君が、あたしに言ったのはこの一言だけ。



「ご、ごめん」



 慌てて謝り、すぐに身を退ける。



 彼女に、なった。なったはず、なのだけど。


 この扱いは、確実に「彼女」にするものではない。あたしは少なくとも、そう思う。


 あの決死の告白から、もう一週間。本当のカップルなら、そろそろ打ち解けてきているはずなのだけど。


 それどころか、教室内では不要なことなら、口を利くことも許さないと言わんばかりの、この態度。


 分かっているつもりではいた。しかし、「つもり」なだけだったのかも知れない。


 そもそもまさか、恋人同士だなんて関係になれるとは微塵にも思っていなかった。


 だから、そうなって彼の態度がどうなるだろうだなんて、想像するはずも無い。



 そう、実は彼、学年で一番モテるけれど女子に対してとても冷たい……


 いわゆる、“氷のプリンス”なのです。