「氷室君……っ」



 教室の片隅から、声が聞こえてきた。


 心臓が、波打つ。


 いくつかの言葉を交わして、二人は出て行った。


 ……その後姿を、黙ってみているしかないもどかしさ。



「…一香」


「あー…ちゃん」


「いいの?」



 ごくりと、息を呑んだ。



 嫌だ。本当は、すごく嫌だ。


 でもあたしは、止められないから。


 帰ってくるときにあの子が氷室君に最高の笑顔を向けていても、仕方がないんだって思った。