「信長様の命により、お迎えに上がりまし
た。御同行願います。」
丁寧な話し方ではあるけど、有無を言わ
さぬ迫力があった。
「これは信長様直々の命です。拒否権は有
りませんぞ。それでもお断りになった場
合この店がどうなるかは想像がつくでし
ょう?」
最後の一言は私には決定的だった。
それでも。
「あ、あの。そんな突然言われましても。
自分などのような者をどのような理由で
お召しなのかも分かりませんし。
それに何より今は店番をしています。店
をあけるわけには参りません。
両親とも話す時間が欲しいのですが。
何せ、突然の御訪問でしたから。」
そしてなんとか渋い顔をする使者を説得
して、明日の朝にもう一度来てもらえる
よう頼んだ。
使者の訪問で頭が一杯で、あの後自分が
何をしていたかすら覚えていなかった。
それは私がどれほど今回のことに驚いて
いたかを如実に示していた。
私はその夜、両親に囲炉裏端で今日の使
者の話を打ち明けた。
そして、自分の決意も。
「そんな!行っちゃだめよ、いくら信長様
の命とはいえ。危険に決まってるわ。」
「………」(お父さん)
「でも、信長様の命は絶対だし、あの気ま
ぐれな殿様が本気になったらこのお店に
何をするかわかったもんじゃないわ。
そしたら妹弟達はどうするの?
私一人で事が収まるなら願ったり叶った
りだわ。
ともかく!私はもう覚悟を決めたの。
信長様のところへ――
行く。」