「そう、そんなことがあったの。」
「でも、それだけで、何も言われなかった
のだろう?こう言うのも何だが、取り越
し苦労なんじゃないか?」
「そうだといいのだけど。」
「今気にしたってどうしようもないわ!
佳枝(次女で15歳)達も心配するし。
また何かあったらその時考えればいい
じゃない?」
今からやきもきしていても埒が明かない
ということで、その日はそれで話は打ち
切りになった。
でもどうやら嫌な予感とは大抵当たる様
に出来ているようで。
信長様に会ってから数日が過ぎ、本当に
取り越し苦労だったんだと思い始め、事
件のことも忘れかけていた頃。
今日は店番。今は丁度一区切りついたの
でお茶でも入れようと奥に行こうとした
時だった。
「御免下さい。」
「あ、はい。いらっしゃいませ。今日はど
の様なご用件で?」
「失礼ですが、凛さんはいらっしゃいます
か?」
突然の名指しに私は当惑した。
そして混乱した頭で何とか答えた。
「私が凛ですが。何かご用でしょうか?」
そもそもこんな高級な着物に刀を帯びて
いる時点で、普通の客では無いと気付く
べきであったと私は後に後悔することに
なる。