考える前に体が動いていた。

私は人の間をぬい、人混みをかき分け
ながら通りに躍り出た。そして半泣き
の女の子を抱き、半ば放るようにして
人混みに戻した。

だがその次に通りに残されてしまった
のは私で、さすがに慌ててしまった。
そのせいですぐに動けず、ただ迫り来
るものを直視できず、目を強く瞑った。

覚悟を決めたのに、なかなか来ない衝
撃に少々驚いた私はそっと薄めを開け
て見たが、あいにくと太陽が眩し過ぎ
てよく見えず、今度ははっきりと目を
開けてみた。

そこにはさっきの黒い馬と、それに跨
る信長様がいた。そして動転した私は
つい、叫んでしまった。

「キャ・・・!!」

慌てて口を押さえたが、時既に遅し。
信長様の片頬の口角が上がるのが見え
た。

「私を見て叫ぶとは。良い度胸だな。」




家に帰り着いた私は顔面蒼白だったに
違いない。

「ただいま…」

「あら、お帰り!遅かったわね。

って…

ねぇ、大丈夫?顔青いわよ?」

「ううん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」

心配をかけたくなくて、私はそれだけ伝
えて夕食の準備にかかった。