(遼平くんに逢える…)

今の私はそれだけが唯一の救いだった…

私は枕の下にそっと手を伸ばした。

イチョウの葉は色あせる事なく黄金色に輝いたままだった…
退院が決まってからの1ヶ月はあっという間に過ぎていった…

退院当日、朝早くから両親が迎えにやって来た。

「忘れ物ない?着替え全部詰めた?」

「大丈夫よお母さん。もう、この病室ともお別れね…」

私たちは空っぽになった病室を後にした…
「あ〜やっぱり外の空気は新鮮だわ」

車は我が家へたどり着いた。

「ただいまっ!」

私はスキップして我が家へ入っていった。

両親は顔を見合わせて笑っていた。
私は荷物を下ろすとその足で久しぶりにあの場所へ向かった。

「ただいま!一回り成長して帰ってきたよ!」

私はイチョウの大木に向かって話しかけた。

「今年もいっぱい葉を茂らせてね!」

「園原?」

後ろから聞き慣れた声がした
振り返るとそこには遼平の姿があった。

「お前…誰と話してんの?」

「遼平くん!ただいまっ!今ねイチョウの木とお話してたの」

「返事なんか返ってこねぇぞ」

そしてにっこり笑って言った

「おかえり」
「退院…随分早かったな…」

「うん、早くここへ来たくて…リハビリも頑張った」

「ウソ付け…俺に逢いたかったんじゃねぇのか?」

「うふふ…内緒」

遼平に逢えた事が本当に嬉しかったから否定しなかった
いきなり遼平がすくっと立った

「どうしたの?」

「お前…約束覚えてっか?」

「あっ、ああ…ごめん」

私は慌ててポケットの中から借りていたイチョウの葉のしおりを渡した。

「はい、これ。ありがとう」
「お前…そうじゃなくて…」

「ん?」

「手術が無事終わってまたここで再会した時は付き合おうって約束したじゃねぇか…」

「えっ?遼平くん待っててくれたの?」

「何の為の約束だよ…」

「嬉しい!ホント!?」
「じゃ、園原…俺と…」

「私と付き合って下さい!」

遼平が言う前に自分から言っていた…

遼平は少しびっくりした様子で

「お、おう…よろしくな」

こんな積極的な自分は初めてだった…