「友達と買い物に行く約束をしていたの。だから、二人でごゆっくり」


 彼女は目を合わせずに部屋を出て行く。


「いいの? ののかちゃんのこと」


「用事があるって言っているんだからそのままでいいんじゃねえの?」


 違う。彼女は恐らく嘘をついていた。


 私が帰ろうとしたから。


「君は帰らないの?」


「帰る」


 その突き放された言葉に体が熱くなる。その場を去ろうとしたとき、彼の手が私の手をつかんでいた。


「まあ、帰られたら困るけどね。誰かさんが買い出しに出かけてしまったし」


 そうだった。ごはんのことをすっかり忘れていたのだ。