人の彼女に“姫”なんてふざけた愛称を付けた郷野さんの茶化しを聞き流しながら、俺は歩いてる人物を窓越しに見つめた。






肩の上で揺れる綺麗に巻かれた髪(エクステだけど…笑)、





ちょっと胸を張った歩き方、





ブランドのバッグをさりげなく肩に掛けて、






実際は聞こえてこないヒール音をカツカツ鳴らしているであろうその姿は−−−






冗談抜きで、どこぞの高飛車なお嬢様のよう。






やっと来たか……




っつうか、相変わらず完璧な化粧してんな……





「ほら、下僕はお出迎えに行ってやれ……」






自分でお願いしときながら乙葉の相変わらずのいで立ちに心の中で苦笑していると、不意に肩を小突かれて、思わず体がよろめいた。






「ぅわっ……!下僕じゃないですよ…」






またもやムッとして振り向く。





そんな俺の無言の攻撃を鼻で笑いつつ、さらに口端を上げた郷野さんは、






「早く行かねぇと、この店にはお前のポジションを狙ってるヤツがうようよ居るんだぞ……」






と、俺の頭をクシャリと撫でて、さっきの反撃とばかりに囁いた。






ったく…、意地クソ悪い上司だ……






「はいはい 仰せの通りに……」






呆れたように言ってはみたけど、実際は俺も薄々感づいてはいる。






“オーナーの娘”という甘いレッテルを背負った乙葉を、出世欲に駆られたそこら中の男共が舌なめずりして見ていることを。







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