トレイを取りに行くフリをしてバックに戻ると、





「おい、“すけこまし王子”」





またもや聞きずてならない呼び名で後ろから呼ばれた。





「なんすか?マネージャー」






ちょっとムッとして振り向くと、案の定、そこには縁なしの眼鏡をキラリと光らせたマネージャーの郷野さんが居た。






「あの上玉の客、まだ物欲しそうな目でお前のこと見てるぞ?」



「そうっすか?」



「……ったく、どうしてこんな生意気なガキにあんなイイ女が色目使うかねぇ……」



「さあ? 郷野さんにだって、熱狂的ファンが居るじゃないですか……」





俺は最近よく来店する50代の客を思い浮かべて、ニヤリと笑いながら郷野さんを見上げた。






その客は店に入ってくるなり、必ずと言っていい程、郷野さんを指名する。






この店には指名制度なんてないのに、だ。






「それを言うな…… せっかく今日は清々しい気持ちで仕事に専念出来てるのによ……」






ひと昔前に流行った韓流スターにどことなく似ている郷野さんは、そう言ってあからさまに眉をしかめてため息をついた。






っていうか、そんな眼鏡掛けてるからオバサマ方に人気出ちゃうんだろ……?
ついでにマフラーまで巻いてやれば……?






まだブツブツ言ってる郷野さんにさらに意地悪を言ってやろうかと思ったけど、止めた。





窓の向こうに、アイツが歩いて来てるのが見えたから。






「お…、やっと姫のご登場か……」







`