「それでママはパパの看病したの?」



「まあな。ククッ……
柾からは何度も助けろって連絡がきたけど。
乙葉もだけど、杏奈も家事に関しちゃ壊滅的だったからな……」



「そんなに!?」






ってことは、今さら頑張ったところで、あたしに通い妻は無理ってこと……?






たしかに今までママの作ってくれたモノと言えば、炭になったハンバーグ、中身が生の唐揚げ、塩味しかしないチャーハン……





とにかく、美味しいと思えるモノはなかった。






あ、でも……





「病気の時に作ってくれる卵がゆだけは美味しいよ……?」





ホントに唯一だけど……





つい2日前にも作ってもらって、こうして元気になれたもんね。





あたしにとっては、母の味ってやつかな。





「卵がゆ、か……
それだけが杏奈のレパートリーだったからな。結局柾もその味で素直になれたらしいよ」



「そうなの?そっかぁ、だからママはいつも嬉しそうに言うんだ。
これはパパとの大事な思い出の味なのよって」



「思い出、か……
アイツが居なくなってもう12年か……早いな……」



「うん……」





だから凌ちゃんも、もう自分の気持ちに素直になればいいのに……
そしたらママだって……






そんなことを思いながら背の高い凌ちゃんを見上げていると、それまで昔を辿るような目をしていた凌ちゃんが、ふいにあたしにイタズラっぽい微笑みを向けた。







「乙葉と怜二を見てるとさ、たまに昔の柾と杏奈を見てる気分になるよ……」






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