「あの頃の杏奈はな……」





再び口を開いた凌ちゃんは、あたしを撫でる手を止めることなく穏やかな声で続きを話してくれた。





もともとは凌ちゃんが街でキャッチしたお客さんだったママは、出会った時はまだ駆け出しのホステスで、たまにホストクラブに息抜きしに来る程度だったこと。





だんだん自分の人気が上がってきた頃、たまたま凌ちゃんが不在で、そこで初めて席に着いたパパと出会ったこと。





その時から周りが気づく程惹かれ合ってるのに、それぞれプライドが邪魔して、互いになかなか本心を伝えなかったこと。





それがパパが倒れたことをきっかけに、ママの中で消えたらしいこと。






「それまで包丁すらまともに握ったことがないって偉そうに豪語していた杏奈が、すっげぇ必死な顔で俺に言ったんだ。

『あたしは、柾の役に立ちたいの!
だからお願い、凌!あたしに料理を教えて』ってな。

クスッ…… さっきの誰かさんに似てるだろ?」



「どうしてそこで料理?」



「医者に言われたんだよ、過労もあるけど、栄養失調にもなってるって。
入院自体は2日で済んだけど、食生活を改善しなきゃまた倒れますよってさ」





なるほどね……




仕事の鬼だったって言うパパらしいエピソードだこと……





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