「亜由美ちゃん、ここは一針だけ斜めに縫ってみて。」

向かい側の机では、有紀さんが亜由美にアドバイスをしている。

ちょっと休憩にもう一杯コーヒーを飲みたかったけど、今は我慢しよう。

私は再び手元に集中した。

まだ仮縫いと言えど、コートの前身ごろと後ろ見ごろがくっついて服らしくなってきた。

このコートを着た慶太はどんな風に見えるだろう。

どんな顔をするだろう。


そんなことを考えていると、心を溶かすような笑顔で、私に手を差し出してくれる慶太のイメージが浮かび上がった。

想像の中では、私と慶太は同じ大きさで、慶太は私の問いかけに答えてくれる。


キラキラと輝くシャンデリアの下で、私は綺麗なドレスを着ていた。



―――私と、踊っていただけませんか??


―――よろこんで。

私は、慶太の手をとって広いフロアをクルクルと回る。


でも、その慶太の声はどんなに耳を澄ませても実体がなくて、どんな声か分からなかった。



気が付くと、ミシンの音は止まっていて、亜由美が私の顔を覗き込んでいた。