「なんだよ、祝ってくれないの?」
広海は意地悪そうな顔をして私の頭をぐしゃぐしゃしていた。
「莉子ちゃん、広さんに絡まれてるの?」
髪はぐしゃぐしゃにされたうえに困り果てた顔をしている私を見た春くんが言った。
「絡んでないよ、な?」
広海は頭をポンポン叩きながら私の顔を覗き込む。
優しい、目で。
胸がきゅぅっとなる。

「ちょっと絡まれてる。かな」
私は自分のなかの暖かい感情に恥ずかしくなって、広海から少し離れた。
ほら、嫌がってるよ~と、春くんが広海の肩を叩いてからかっていた。
あと少しの駅までの道は、広海の背中を見て歩いた。



改札口で不意に手首を捕まれた。広海だった。
「これ、」
「え?」
広海が私の手首を見て言った。何のことかわからない私に、
「これ」
と、広海は指差した。
バングルと一緒に手首に巻いている革のブレスレットだった。
「お祝い、これにする」
そう言って広海は勝手に外して自分の腕にはめた。
「俺には小さいな。おまえ、腕細いな。」
「当たり前だよ。私、女の子だもん」
「でも、これ貰っとくわ」
そう言って広海はブレスレットを巻き付けたままの腕をポケットに突っ込んだ。


その日も、広海は手を振らなかった。