私…



ここでの記憶がほとんど薄れてる。




全くと言っていいほど、思い出せない。





「この木はねぇ… “金木犀”って言うんだよ。」




「きん…もくせい」




「秋になると、小さな黄色い花を咲かせてねぇ…それがいい匂いなんだよ…覚えてないかい?」




「……」




小さな黄色い花で



いい匂い……





ーーー『夜深!!しょーねんじだいってゆう歌知ってる?』




『しょーねんじだい?』



『うん!なーつがすーぎってゆうやつ!お父さんが教えてくれたんだ!季節はずれだけどってゆって!!』




『私…知らない。』




『教えてあげるからうたおー!!』




『……うん!!』ーーー









「おばあちゃん……覚えてる… っ…覚えてるよ……」




思い出した。



あの子と一緒にここで毎日歌ってた。




花が咲いてなくても、花が枯れてしまっても……



「でも、名前が思い出せないの……おばあちゃん…」




「泣かなくても平気だよ…本当夜深ちゃんは泣き虫だねぇ」



おばあちゃんはそう言って私の背中をさすりながら微笑んだ。