「思いわびさては命もあるものを憂きたえぬは涙なりけり……えー、この歌は道因法師が作ったもので……この人は別名、藤原の敦頼という人です」
“思ひわびさては命もあるものを憂きたへぬは涙なりけり”
私はそう書かれた古典の教科書を眺める。
「意味は…」
先生が大きな声を出して説明している。
多分、これは…
恋の歌だ…
「意味は“つれない人をひどく思いなげいて悲しんでいても、よく死にもせず命はあるものなのに辛さに堪えられないのは、流れ落ちる涙なのだなあ。”という訳になります」
やっぱり…悲しい恋の歌…
「つれない人というのはわかると思いますが、想い人のことです。」
「……」
私は先生のその説明を聞いて、教科書に落としていた視線を黒板へと移した。
そこにはやはり、“思ひわび”の歌がチョークで書かれている。
悲しい歌……
私はそれしか思えなかった。