私が強く抱き着くと、唯人君も強く抱き返してくれた。
「唯人君……」
「…うん…あいつのことだろ?」
“あいつ”とはさっきの人のこと。
「うん…」
唯人君…私が気にしてるのわかってたんだ…
「いつかは言わなきゃいけない日が来ることはわかってたんだ」
「唯人君…?」
「…でも夜深を困らせたくなくて…泣いちゃったらどうしようとか色々考えて…」
「…」
「夜深があいつを思い出すまで待とうと思ったんだ」
「……唯…人君…」
もしかして……
「…う…そ……」
「夜深…鈍感過ぎるよ…」
「……」
「さっきのあいつはね…」
ドクンドクンーー
手が、汗ばむ…
私は唯人君の唇を見つめながら、ゴクンと唾を飲み込んだ。
「…あいつは……“雅人”だよ。夜深」
「………」
唯人君の言葉を聞いた瞬間に走馬灯のように昔の記憶が蘇った。
唯人君は近くで話しているのにその声はやけに遠く感じた。