唯人君はギュッと唇を噛み締めて、電話を眺めていた。
「唯人君…」
私の一回目の呼びかけに気付いていない様子の唯人君を、もう一度呼んだ。
「……あ…ごめん…」
「ううん。どうかした?……私…行かないよ。会いに行ったりとかしないから…」
「うん…。ごめん…。ありがとう。でも違うんだ。ちょっとぼーっとしただけだから…」
「うん」
「病院。行こうか?」
唯人君はさっきの怖い顔とは逆の、いつもの優しい笑顔で言った。
「……うん…」
でも、何だかとっても不安だよ。
唯人君…
どこか、遠くに行ってしまいそうな目をしてるから。
唯人君……
このとき、もっとちゃんと……
唯人君をわかってあげてたら
良かったのにね……
私は、部屋を出るとき、握った唯人君の手をいつもより強く握った。
どうか、離れないように……