「なんだそれ」

クスクスと笑いながらも、もっと強くあたしを抱きしめる。

その時、顔に何かが当たって思わず声をあげた。

「痛っ」

「あっ、悪い」

そっと体を離しながら顔を上げると、楓がゴソゴソとブルゾンの胸ポケットから何かを取り出そうとしていた。


「はい、コレ」

目の前に差し出されたのは、小さなピンク色の小箱。

「え……あたしに?」

「他に誰がいんだよ」

そう言ってまた目を逸らす楓。

わけも分からずその箱のリボンを解くと……


「コレ……」

「あの電話はコレができたっていう連絡だったんだよ」

「え?」

「ダブルデートが決まってから時間なかっただろ?ギリギリに仕上がるっつーから焦ったよ」

「わざわざ作ってくれたの?」

「ああ。その裏、メッセージ入れてもらったからさ」

思わず裏を覗き込もうとしたけど、暗くてよく見えない。


「帰ってみてくれよ、恥ずいから」

「今見たい」

楓が「後で」と言いながら、それをあたしの右手の薬指にはめた。


「ずっと好きだったんだ。……ずっと虹那がほしかった」

囁くような声だったけど、ハッキリあたしの耳には届いたよ。

それはあたしがずっとほしかった、ただ1つのものだから。


「あたしも……あたしも楓が好き。楓の“スキ”だけが、ずっとほしかった」


やっと聞けた楓の“スキ”

やっと言えたあたしの“スキ”


亜依……あたしにも魔法、まだ解けてなかったよ。