ハニーハントで長蛇の列に並んでいる間、あたしが話しかけても楓は上の空。
「ああ」とか「うん」とか、そんな言葉しか返ってこない。
そんな楓にますます不安が募る。
これ以上話しても無駄だと思ったあたしは、黙ってただ俯いた。
そんな時、再び楓の携帯が鳴って思わず体が揺れる。
もしかして……またレイカちゃん?
ディスプレイを確認した楓が、「ゴメン、待ってて」と言い残し、長蛇の列を逆走していった。
……やっぱりレイカちゃんなんだ。
ハニーハントの入り口はまだまだ先。
沈黙のまま並んでいると、待ち時間が余計に長く感じる。
たぶん楓は電話を終えたら戻ってくる。
それは楓の優しさで、本当はレイカちゃんが気になってるのかもしれない。
もうあたしの魔法は解けちゃったのかな。
楓と一瞬でも、恋人同士みたいに過ごせただけでも幸せなのかな。
ジワーっと涙が目に溜まり始めた時、「悪りー」と言いながら、走って楓が戻ってきた。
「何で泣いてんの?」
今にも泣き出しそうなあたしに気付き、楓が心配そうに頬に手を伸ばす。
「虹那?」
楓の優しい声が、ますますあたしの涙を誘う。
「……行きなよ」
「え?」
「気になるんでしょ?レイカちゃんのこと」
「レイカ?いや、今のは」
「いいから行って!!」
楓の言葉を遮って思わず声を荒げてしまった。
周りのカップルがチラチラとあたしたちを見てくる。
でも今、そんなこと気にする余裕はあたしにはない。
「さっきから楓、変だもん。気になるなら行けばいいじゃない!!」
楓の手を振り払って、勢いよく駆け出した。
「おい、虹那!!」
楓に捕まることがないように、どんどん人ごみに入って、一度も後を振り返ることなく走り続けた。