楓のさりげない優しさが嬉しかった。

「楓、ありがとう」

いつものあたしだったらきっとこんな風に素直に楓に「ありがとう」なんて言えない。


すっかりあたしも、魔法の国の“魔法”にかけられたみたい。

楓を真っ直ぐ見つめたまま、ニッコリ笑いかけた。


そんなあたしを目を真ん丸にしながら見ていた楓は、照れたようにクルッとあたしに背中を向けた。

「べ、別に。お前のためじゃねーよ……」

「ふふ。そうだよねー?楓は女の子には優しいんだもんねー?」

いつもの楓に戻ってほしくて言ったつもりだったのに、あたしの言葉にピクンと手を動かすと、ボソッと呟いた。


「……別に誰でもってわけじゃねーよ」

「え?何?」

「何でもねー。行くぞ」


またあたしの手を引っ張り、先を歩く楓の耳は赤くて。

きっと今正面から見たら、ものすごく赤くなってるんだろうな。


……ダメだあたし。

さっきから顔が緩みっぱなしだ。


本当は聞こえてた。

楓がボソッと呟いた言葉。


ーーー…ねぇ、楓。

あたし、期待しちゃってもいいの?

楓が優しくする相手は……あたしだけだって。


期待しちゃうよ?