「……亜依?大丈夫?」


あの後すぐに楓と颯太がやってきて。

あたしたちを見た瞬間の颯太の第一声が「なんでいるの?」だった。

それを聞いた亜依はすぐに泣きそうな顔に変わったけど、こんな大勢の人の前で泣けないから、一生懸命我慢してる……今も。


それにしても、颯太が何を考えてるのかサッパリ分からない。

イブに彼女とデートの約束すらしていないのにも驚いたけど。

何より本当に亜依と付き合ってるっていう自覚があるのかと、本気で問いたい。


隣で耳の垂れたウサギみたいにションボリしている亜依を見ると、どうしたらいいのか分からなかった。


ここで颯太を殴って問いただすことは簡単だけど、それじゃ一生懸命覚悟してきた亜依の気持ちを踏みにじることになるし。


……きっと亜依のこと、悲しませちゃうだけ。


ただ黙って隣にいることしか、今のあたしには出来そうもない。

そんな時ふと顔を上げると、前を歩く楓と目が合った。


ーーー…え?

なんか、こっちに向けてウインクしてるんだけど。

これって、何かの合図?


「あたし、ちょっとトイレに行ってくる」


亜依があたしの側を離れた後、すぐに楓があたしに近寄ってきた。


「虹那、このままあいつら2人にしちまおーぜ」

「えっ?今この状況で!?」


どう考えても今はマズイのでは?


颯太は機嫌悪そうだし、亜依は落ち込んでるし。


だけど楓は「いいからいいから」と笑いながら、あたしの手を引っ張ってどんどん人ごみの中に紛れていった。