屋敷に忍び込むように入り、急いで打掛に着替え、殿の部屋に向かいました。

その途中、清姫の部屋の近くを通った時、経を読む声が聞こえました。

何人もの泣き声も聞こえます。

私はそれを振り切るように、殿の部屋に駆け込みました。

「小松…。」

「殿。
只今、戻りました。」

「ああ…」

私も殿も、言葉を発することができません。

殿は書を読み、私もまんの着物を縫って時間を過ごしました。

ただ、共に居たいのです。

一人で、居たくは無いのです。

どれ程そうしていたでしょう、日が傾いてきた夕暮れに、来客がありました。

書物や着物を奥に押しやり、その客人を迎え入れます。

「突然申し訳ない。
失礼する。」

この声、何処かで聞いたような…。

「よう参った、三成殿。」

あ…。

その方は三条河原での処刑を見届けた、あの武将でございました。