そんなことを考えている内に
気が付けば俺の足は
ちゃんと綾太の家の前に来ていて
俺は恐る恐る、チャイムを押した。

ピンポーン…と
静まり返った家の中に
その音だけが響く。


綾太は、中々出てこなかった。


(もしかして、綾太…っ)


俺の額に嫌な汗が溢れたとき、
ゆっくりと玄関の扉が開いた。
ゴクリと生唾を飲み込み、
荒れた息を整える。

出てきたのは、綾太本人だった。


「良也?」
「あや、た…!」


安堵が急に押し寄せてきて、
俺はホッと胸を撫で下ろす。

想像に反して彼は、別段取り乱した様子もなく、
どこかに出かけるのか、大きなリュックを
背中に背負っていた。


「どうしたんだよ。走ってきたの?」


相変わらず、能天気なその声に
俺は逆に腹が立って
思わず綾太の肩を掴んで、ガクガクと揺らした。

呆然としている綾太に、
泣きそうなのを堪えて、恐る恐る
彼女の名前を口にする。


「美奈が……。」
「あぁ…。」


聞いたよ。と少し俯き加減で言った綾太は
やはり急に表情を暗くした。


「死んだって…そんな、綾太、お前…
 大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫。」


不謹慎だとは思ったが、
そのためにここに来たので、俺は躊躇なく言葉にする。


「後追いとか、」
「しないよ。」


きっぱりと、綾太は言い切った。
顔を見ればいつものように
優しい微笑みを浮かべている。

ドッ…と安心感から
汗が噴き出た。


綾太なら、やりかねないと思ってしまった。
美奈のいない世界なんて、無いものと同じ…
そんな考えを持っている彼だから。

俺はゆっくりと、綾太の肩から
手を離した。