美奈の浮気にさえ、
綾太は信じると言って笑う。
俺は今度こそ怒られるのを覚悟で
彼を目の前に言った。


「このままじゃあ、お前
 ボロボロの雑巾みたいにされて
 捨てられるぞ!!」


俺のその言葉に、綾太は一瞬
表情を失くしたように見えたが
すぐに元のように優しく笑った。


「美奈も、付き合い始めたころ
 言ってたんだ。」
「は……?美奈が…?」


こくり、と綾太は頷くと
まるで何でもないように笑って
俺の目を見つめた。


「綾太は真っ直ぐすぎるから、
 ときどき怖くなる…って。」
「まっ…すぐ…。」

「だから私はいつか逃げたくなって
 綾太を捨てる日が来るって。」


美奈も、きっと俺と同じような恐怖を
彼に対して抱いていたのだろう。


美奈と綾太の関係は、
本当に綾太の一方通行の恋から始まった。

悪女、と評判の美奈のどこに惚れたのか
彼は常に美奈のそばにいた。
根負けした美奈が、付き合うと言うまで
綾太はずっと彼女を見つめ続けていたのだ。


そのときだって、俺は止めたのに。
美奈は、止めとけと。

けれど、愛すると美奈が言ってくれたんだと
綾太は信じて疑わない。


「でも、それでも美奈は僕の傍にいるだろ?」


それだけで、偽りの愛を感じている…と
そんなねじ曲がった愛の形。

友人として、俺はこれ以上何も言えなかった。
言うことに、恐ろしさを感じた。


「もし美奈が他の男といたとしても、
 キスしても……それ以上のことをしていても。」


「僕は、美奈から離れない。」


絶対に。


そう言いきった綾太の目が
俺は、忘れられない。