本当に心底、美奈のことしか
考えられないと、昔言っていた。

溺愛……というよりも崇拝に近かったかもしれない。

そんな彼の姿に
俺は何度恐怖を感じたか。
何度も「美奈はやめとけ」と言った。


しかし、綾太にそれを伝えることは出来なかった。


「やめとけって。や、マジで。」
「どうして?」
「どうしてって……」


俺がそう言うたびに、綾太は首を小さく傾げて
何故?と微笑むのだ。
彼が美奈の本性を知らないはずはないのに。


「美奈のこと、知らねぇのかよ!!
 ……あいつが…、お前に内緒で何をやってるのか…」


そうして声を荒げたって、
彼はまた優しく笑って、いいんだ、と言う。
何がいいのか俺には分からなかった。


数ヶ月前、俺は街で美奈を見かけた。

そのとき彼女は、綾太といるときとは
また違った服を着て、違う笑みを浮かべて
綾太とは違う男と歩いていた。

明らかに友達とは思えない二人の関係に、
俺は思わず美奈に問い詰めたのだ。


綾太を愛していないのか、と。


しかし、そのとき彼女は
やはり変わらない微笑みを浮かべて
俺に事実を突き付けた。


もちろん、愛している。と。


そんなもの、空っぽの言葉で。
嘘というのは明らかで。


けれどそれを綾太に伝えても彼は――


「美奈が僕を愛してるって言ったんだ。
 だから、それは絶対だ。」


と笑った。


「嘘だと…思わねぇのか。」
「うん。思わない。」


美奈が言ったんだろう?
そう言って、俺を説き伏せるような口調で
綾太は尋ねる。

俺は思わず押し黙ってしまい、
首だけを縦に小さく振った。


「そう。だからそれは真実。
 僕は美奈を信じてる。」
「でも……っ」


「美奈の悪口は、聞きたくないよ。」


そのときの彼の声色は、
普段と変わらない柔らかなものだったのに
俺は背筋がまるで凍りつくような感覚を覚えた。

一体誰なんだ?
この今目の前にいる彼は――本当に、綾太なのか?


そう疑うほど、
恐ろしさを感じて。

狂ってる、と言ってしまえたら
どれほどよかったか。