土曜日。唯一私の門限が夜中の12時まである日。何故なら土曜日は仕事が17時までだから。平日は18時までだけど決まって土曜日だけは17時でピタリと帰れる日だった。私は親に友達と遊ぶと嘘をついていつもたくちんと遊んでいた。だって上司と付き合ってるなんて口が裂けても言えないもの。社内恋愛禁止だし、それは親も知っていたから…。
ある日初めて土曜日のデートに誘われた。いつも昼間しか逢っていなかったから夜のデートは新鮮だった。
「わぁ〜。夜景がキレイだね」
「そうだな、たまには夜のデートもいいかもな。時間は短いけど…」
「大体さぁ二十歳すぎてるのに門限があるってねぇ…」
「それだけ親は心配なんだよ。門限は12時だったね。瀬菜はシンデレラだ」
夜のデートは大人の気分にさせてくれた。(すでに大人なんだけど中身は子供だからね…)
私たちは海岸沿いに車を止めた。外へ出て夜風に当たった。
「あー、気持ちいいね」
たくちんは私を後ろからヒョイと抱えて防波堤に乗せてくれた。その後自分も横に腰掛けた。黙って2人真っ黒な海を眺めていた。
「何考えてるの?」
「瀬菜の事」
「私のどんな事?」
「瀬菜の洋服の下はどうなってるのかなぁ…」
「いゃー、エッチ」
「嘘、冗談。ずーっとこうしていられたらいいのになぁって考えてた」
「どうして?」
「瀬菜は若いから若い男の所に行くんじゃないかってさ」
「私行かないよ」
「そっか。ありがとう」
「そろそろ帰ろうか」
「うん」
たくちんはわたしを防波堤の上から抱っこして下ろしてくれた。夜の初デート…あっと言う間の時間だった。
私たちは休みの度デートを繰り返していた。そんないつもと変わらずドライブを楽しんでいる時たくちんが言った。
「もうほとんどの行楽地に行ったよね」
「確かにもう行くトコないね」
「どこ行こっか…」
「うーん、うーん」
そして車は走り出した。
「どこ行くの?」
たくちんは黙って車を走らせていた。目の前にホテル街が見えて来た…
「もしかしてホテル?」
たくちんはだまったまま一件のホテルへと入って行き車を止めた。
「着いた!」
「ホテルで何するの?」
「瀬菜のカラオケ大会!」
「…………」
私は黙ってたくちんの後を着いて行った。
たくちんはベッドへ腰掛け
「さぁどうぞ。好きなだけ歌って」
私もそろそろネタ切れだった。
「うーん、何歌おう」
本をパラパラめくっている時だった。急に体が宙に浮いた。
「えっ?は?何?何すんの?」
たくちんは私をお姫様抱っこしたままベッドまで行きそして静かに下ろした。
起き上がろうとした時たくちんが上から体重をかけずに覆い被さってきた。
「瀬菜?ダメ?」
「………………」
「初めてじゃないよね?」
私はうなずいた。嘘だった。本当は初めてだったんだ。
たくちんは優しくキスをしてきた。私は体が凍りつきされるがままだった。
「瀬菜?緊張してる?大丈夫だよ。俺も緊張してる」
私はしっかりと目をつぶった。体が溶けてしまいそうだった。…………………………………
2人は裸でベッドの中にいた。私は恥ずかしくてたくちんの顔をまともに見る事が出来なかった。
「瀬菜?こっち向いて」
「やだ」
「何で?」
「恥ずかしいもん」
たくちんは手で私の顔を持ち上げた。
「かわいいよ」
恥ずかしさの余り顔から火が出そうだった。
そしてまた抱き合った。お互いの体温を確かめるかのように…(私、とうとうやっちゃった)
心の中でそう思いながらも幸せの余韻に包まれていた。
私やっぱりたくちんの事好きだ。いや‥違う。愛しているんだ。そう確信した。好きと愛してるの違いが初めて分かったような気がした。
突然たくちんが
「瀬菜のおっぱい可愛いね」
「ぎゃー!いやらしい!」
私のこの幼児体系みて嫌いにならないかな…一抹の不安がよぎった。そんな不安をかき消すかのようにたくちんは言った。
「俺、瀬菜の事がもっともっと好きになった」
「ホントに?がっかりしていない?」
「がっかりしたのは瀬菜の方じゃない?」
「ぶっ、あははは」おかしくて2人で笑った。
私たち2人はさらに強い絆で結ばれたような気がした。
いつもと変わらないある日、突然の吐き気が襲った。
「お昼のお弁当傷んでたのかなぁ」
胃腸薬を飲みそのまま仕事を続けた。次の日も突然吐き気はやってきた。
「うっ…気持ち悪い…」
その日から体がオレンジジュースしか受け付けなくなっていた。
「まさか…妊娠?そんなはずはないか…毎回きちんと避妊してるしなぁ」
日曜日、それでも何となく気になってたくちんに相談する事にした。
「ねぇ、たくちん…あのね…」
「どうした?」
「まさかとは思うけど妊娠したかもしれない?」
「えっ!?避妊はきちんとしてるからそれはないんじゃない?でも一応調べてみよっか」
薬局で妊娠検査薬を買い公園のトイレに駆け込んだ。検査薬には陽性反応が出ていた。2人して呆然とした。全く心当たりがなかったからだ。
「一度産婦人科へ行ってきちんと調べてもらおう」
たくちんの言葉にうなずいてその足で産婦人科へと向かった。検査の結果…
「おめでとうございます。妊娠していらっしゃいます」
看護婦の言葉が信じられなかった。先生と話す為診察室へ2人で入っていった。
「先生、きちんと避妊しているんですが妊娠する事ってあるんですか?」
たくちんが尋ねると先生はこう言った。
「ごくまれなケースで妊娠する場合もあります。コンドームだけでは100%避妊が出来るとは言えません」
2人は病院を後にした…
私のお腹のなかにはたくちんの子供が入ってるんだ…
複雑な気持ちだったが嬉しかった。2人の意見は一致していた。
「産もう!」
嬉しかった。会社への報告はもう少し先延ばしする事にした。その日の夜たくちんからメールが届いた。
【瀬菜の子供だからきっと可愛いよ。そうだ!名前は男の子だったら飛鳥、女の子だったら姫香、オカマだったらキャサリンだ】
ふふふ…気が早いなぁ〜。私はお腹をさすった。一週間後だった。家の階段から下まで滑り落ちてしまった。
「まさか…!」
私は慌てて階段から滑り落ちた痛みも忘れ産婦人科へと駆け込んだ。
流産だった…
たった一週間の命しか上げられなかったのだ。涙が次から次へとこぼれ落ちた。たくちんに泣きながら電話した。すぐ近くの公園まで来てくれた。私は全てのいきさつを話した。たくちんは黙ったままぎゅっと抱きしめてくれた。たくちんの目にも涙が溜まっていた。6月の始めだった。
私たちはお寺へ行き一週間しか生きられなかった我が子にお経をあげてもらった。それから毎月命日にはお参りを欠かさず続けた。
「今度生まれて来る時はもう一度私の赤ちゃんとして産まれてきてね」
私とたくちんの仲は一気に縮まりもう何も怖いものはなかった。一緒に手を繋いで歩いている時も周りから振り返り見られたり指差されたりする事もあるけれど私は平気!付き合い初めて五年が経過…。私たちの仲は変わらない。街角の手相占い師に2人の行方を占って貰った。結果は最悪だった。でも関係ないよね、たくちん。だって私たち赤いロープで結ばれているもの。たくちんのくちぐせ…それは…
「俺のものは瀬菜のもの。瀬菜のものは瀬菜のもの」
私のものはたくちんのものだよ。近い将来一緒になる約束もしちゃった。2人の秘密がバレる時だね。みんなどんな顔するのかなぁ…楽しみ。会社で逢ってプライベートで逢って毎日逢える幸せ。瀬菜はこれからもずーっとたくちんの事愛してるよ。お料理、ゴルフ…頑張って勉強するからね。子供な私と大人なたくちん。たくちんの言う
「いつまでも天真爛漫な瀬菜でいてね」
それってこのままでいいって事だよね?こんな私を愛してくれてありがとう。
いつまでも私の上司はダーリンです。大好きダーリン。