眠れない夜だった。
最近は現実から離れていたから、そんなこともなかったのに。
片桐さんと過ごす時間が、私にとってどんなに幸せだったか…。
そのことを今になって思い知らされた。
このまま、ずっとここにいたい。
片桐さんの隣でいつまでも笑っていたい…。
「今日も満月…。」
涙が溜まった目に映る月は、淡くぼやけて丸く見える。
秋の入り口で月もきっときれいに見えているはずなのに
現実から逃れたかった私は、昔からどうしても本物の月が見られなかった。
毎晩丸く輝く淡い月は、私が作り出した現実には有り得ない月。
目の悪い自分には簡単に作り出せた。
もちろん、涙が止まらない夜も。