普通の人なら今までの生活に戻るんだろうけど。
私は――…
「戻るつもりなかったから…何も考えてないです。」
入院して何かが変わることを望んだわけではない。
体が治るにつれて、現実への不安が募っていく。
「俺は大切な人がいるから、会いに行くよ。」
「彼女ですか?」
「うん。死にぞこなったし。」
私ってわがままだ。
彼の口から、彼女とか死とかいう言葉は聞きたくないなんて。
「いいな、大切な人がいて。」
「小波さんも俺の大切な人だよ。」
一瞬、気のせいかと思った。
そんなこと言われるわけない。
「…大切な人だよ。」
だけど、もう一度聞こえる。
彼も私を見ていて、その顔はどこか寂しげだった。