3年生になりクラス変えがあった。小さな学校。クラスの3分の1は元のクラスメート。運悪く私をいじめていた男の子も同じクラスだった。ゴミを投げられたり引き出しの中の教科書、筆箱の中の消しゴム…隠される事は頻繁だった。すぐ泣く私にみなストレス発散を得ているように思えた。そんなある日、いつものようにいじめられ机に突っ伏して泣いていたら坂元君に「こいつ五円ハゲが出来てる!かっぱや、こいつのあだ名はかっぱや」と言われそれからみんな私の事をかっぱと呼ぶようになった。家へ帰り母に「私、学校でハゲが出来てる言われたけど出来てる?」母は念入りに私の頭を探って「あら、本当。何で出来たんやろか?あんた悩み事でもあるの?ツムジ付近に10円位のハゲが出来てる」と言われた。本当だったんだ。母はいじめられるといかんからピンで隠しとこうねって言ってピンを留めてくれた…が既に遅かった。「コイツかっぱや」クラスの誰もが知っていた。私は耐えられず親に思い切っていじめられてる事を話した。返ってきた答えは「あんたが泣き虫やからいかんのや。立ち向かったらいい。お父さんとお母さんの子や」。無理に決まってる。何にも知らんからそんな事言えるんだ。それから親には何にも話さなかった。しばらくして私を最初からイジメていた男の子が転校していった。嬉しかった。親も私の知らない所で先生に相談していたらしくそれからいじめは減っていった。小学5年生の終わりだった。
私は中学1年生になっていた。その頃父親が子供の頃離婚して別れた父親、(つまりわたしのおじいちゃんになる)と偶然の再会を得て行き来するようになった。その日の夜も話が弾み夜遅くなっていた。明日は日曜日。私1人泊まって帰る事になった。その夜寝ていると体がもぞもぞして目が覚めた。なんと、私に出来た初めての優しいおじいちゃんが私のパンツの中に手を入れもぞもぞしていたのだった。うつ伏せで寝ていた私に耳元で仰向けになるようにと言われ怖くて股に力を入れうつ伏せの状態から動かなかった。耳を舐めてきた。気がつくと私の顔の横に自分のモノを出してほっぺたにこすりつけてきた。思春期の私にはその行為が恐ろしくただ、ただ、耐えた。朝が来た。夕べの事は何もなかったかのように接して来るおじいちゃんが怖かった。おばあちゃんはおろか両親にも言えなかった。初めて私の欲しい物を買ってくれた、私にも優しいおじいちゃんが出来たと思っていたのに…そうこうしている間におじいちゃん夫婦は転勤で県外へと去って行った。父親は寂しそうだったが私には天国だった。
中学3年生の半ば急遽家を田舎に建てると言われ隣りの市へ引っ越しする事になった。私は途中で志望校を変えなければならなかった。私の中学からその高校へは私1人だけだった。無事合格し晴れて女子高生となった私は毎日が充実していた。学校から家までは10キロあり自転車で通学していたが私の過去を知っている人がいないから苦ではなかった…
ところがそんな平和な日々にも事件は起きた。帰りが遅くなり小雨の降りしきる中薄暗くなった帰り道、家路に急ぐ途中それは起きた。他校の男子学生5〜6人位がいきなり周りを自転車で囲み「名前なんて云うの」と絡んできたのだ。見るからに髪は金に近い茶髪でヤンキーそうろうだった。怖かったので無視して自転車を走らせていたら「シカトすんなよ」と自転車ごと蹴られ転んでしまった。それから………………………………
気が付いた時にはスカートの裾はほつれ制服も顔も泥まみれだった。余りの恐怖にその時の出来事は未だ思い出せない。震える手で自転車を起こしやっと家まで帰り付いた。帰ると母親がビックリした様子で「どうした?」恥ずかしくて親には言えずただ自転車ごと転んでしまったと嘘を付いた。泣いていたが雨が降っていた為気付かれたかどうかはさだかではない。それからすぐお風呂に長時間入った。その夜ベッドの中で声を殺して泣いた。そしてひたすら願った。妊娠しませんようにと…。次の日、学校へ行くのが怖かった。嫌だった。でも親に知られるのが一番嫌だったから何もなかったかのように学校へ行った。おじいちゃんといい男子校生といいこの当時から男性恐怖症となっていった。もちろん彼氏など出来るハズもなかった。
高校卒業後、私は逃げるように遠く離れた県外の専門学校へと通う事にした。家は貧乏であった為私の進学を猛反対した。私は始めから親に頼るつもりは無かった。働きながら学校へ通う就職進学と云う方法があったからだ。とにかく遠くへ逃げたかった。いつあの日の男子学生に出くわすか、脅されるか気が気でなかったから…
専門学校と仕事の両立は決して楽ではなかった。でも気持ちは楽だった。ここで1からやり直そう。
そんな生活も2年目を迎えようとしていたある日、男の人から突然告白された。生まれて初めての出来事だった。初対面ではなく何度か行き来のある人だった。初めてこんな私の事好きだと言ってくれた…嬉しかった。凄く嬉しかった。私達はお付き合いをする事になった。
休みの度彼とドライブ、ショッピング…幸せだった。そんなある日付き合い出して半年位した頃彼に「ホテル行かない?」と聞かれた。急に過去の出来事を思い出し小さな声で「一年間はダメ」と言った。彼は「一年間!?俺の事好きじゃないの?」と言われて首を横に振り「凄く好きだし一緒にいて幸せだし楽しいよ。だけどそれだけは待って…」 それから彼はホテルへ行こうとは言わなくなった。ただ休みの日に逢って手を繋いでショッピングして帰るといった小学生のようなデートを繰り返していた。私はそれで満足だった。彼も同じだと思っていた。あの事を知るまでは…
ある日、いつも通りに仕事を終え本来ならそれから学校へ行く予定だったが何気なくその日は学校をズル休みした。フラッとウィンドウショッピングをしようと寮を後にし駅まで向かった。彼の誕生日も近かったので欲しがっていたスニーカーを買う為に店に立ち寄った。
と、そこに彼が私の親友と手を繋いでスニーカーを選んでいる光景を目の当たりにしてしまったのだ。私はとっさに隠れた。「何で?私が彼と付き合っている事知っているくせに…」
それから2人は仲良く手を繋いだまま消えて行った。ショックのままフラフラと寮へ帰り部屋で呆然としながら何度もあの光景を思い出していた。その夜、何事もなかったかのように私に電話を掛けてきた彼。私は小さな声で問いかけた。「ねぇ、今日…何してた?」彼の返事は「仕事だった」。私は続けた。「私見ちゃった。ミーナと一緒だったよね?手まで繋いでさ…」暫く沈黙が続いた。そして返ってきた答えはこうだった。「ナナちゃんがさせてくれないからじゃん。男が一年間も待てる訳ないじゃん」
私にはその行為は不潔なものとしか捉えられなかった。男ってみな同じなんだと思った。次の日ミーナとばったり出くわした。ミーナに「マコと一緒にいる所見たんだってね。大体あんたが悪いのよ。いつまでも子供のお付き合いごっこしてるからこうなるのよ。私達は大人の付き合いをしてる。私もマコが好き。あんたに勝ち目はないよ。他当たんなさいよ」
ミーナは強気だった。やっぱり私が悪いのか…。私に出来る事は身を引く事だけだった…。
私がマコと別れてからマコの親友から連絡があった。嫌な事は忘れて思いっきり遊ぼ!!
徹夜でゲーセンで遊びコンビニでタムロして何だか不良になった気分で我を忘れて遊んだ。「ねぇ、ななちゃん男なんて沢山おるからいい奴紹介してやるな。何で別れたかは知らんけどただ合わんかっただけや」。違う。私は心の中でそうつぶやいた。私の男性恐怖症が原因なんだと…。それから1ヶ月位して合コンに誘われた。まだマコの事を吹っ切れないでいる私の為に友達が用意してくれたのだ。その時知り合ったタクはなんとなく気が合って電話番号を交換した。それから毎晩電話で色んな事話した。少しずつ私の中のマコは消えていった。その夜もたわいない話をしているといきなりタクが「なぁ、ななちゃん。俺達付き合わせん?」
まただ。付き合う=エッチ目的としか考えられない私はそれが怖くて「今のままじゃだめなん?今のままがいい。まだ誰とも付き合う気せんわ」と逃げた。
「なぁ、何でそんなに付き合わせんの?相談乗るよ」。「どんな事があっても変わらずにいてくれる?」。「当たり前や」。私はこの人ならと今までの過去を打ち明けた。レイプされて男の人が怖くなった事、未だにスカートを履けない事、付き合ってもエッチ出来ない事…。
暫く沈黙が続いた。そしてタクの言った一言が更に私を追い詰め、話した事を後悔させた。
「もしかして病気持ち?病気持ちはマジ勘弁」。そして電話は切られた。二度と掛かって来る事は無かった。浅はかだった。もう誰も信用出来なかった。
そして弱い私は二度目の自殺を考えていた…
私ばかだよな。こんな事話すなんて。自分の胸に一生仕舞ったまま死んでゆけばいいのに…
これから先どうなるんだろう。生きている意味、価値あるのかな。生きて行くってホント辛いよ。死ねたら楽かな…
そんな事を考えながらフラフラと駅のホームにたどり着いていた。飛び込もう!迷いは無かった。電車が来るのを待った。急行列車を待った。来た!
走って人混みをかき分け黄色い線を越え今だ!
……………………………
私はホームにいたサラリーマン風のおじさんに腕を掴まれていた。「あんた何やってんの!危ないよ」
私はその場に座り込んだ。さっきまでの勢いは砕け散り脱け殻の私がそこにいた。また死ねなかったの?そう思うと同時に一気に血の気が引き体の震えが止まらなかった。
もしかして私、生かされてる?座り込んだままの私に小さな男の子が駆け寄り「お姉ちゃん、どうしたの?歩けないの?」
涙が溢れた。こんな小さな子供にさえ心配かけさせ自分の愚かさ情けなさ一気に駆け巡った。目が覚めた。私はすくっと立ち上がって「ありがとう」と一言発しその場を立ち去った。
私は手が有り足が有り目も口も耳もある。何一つ不自由していない。生きたくても生きられない人だっている。私より辛い目に遭っている人だっている。私は死にたくても死ねなかった。だから生きてやる。ようやくわずかな小さな光が見え初めてきた。小さな光だけど真っ直ぐ一直線に伸びた光。人間は必ず死ぬ。死を急がず生きていく事を怯えず頑張っていこう。負けたくない。それでも私は負けない!